「身体・知的障害者はバス運賃が割引されるのに、いつも乗る路線バスでは精神障害者だけ割引されません。なぜでしょうか」。愛川町に住む60代の会社員女性から「追う! マイ・カナガワ」取材班にこんな声が寄せられた。身体・知的障害者と同様に、精神障害者にも手帳が発行され、さまざまな支援が受けられるはずだが…。
コロナで打撃「余裕ない」
事業者側の考え方はどうなのか。
県バス協会の担当者は「コロナ禍で大きく減収し、どこも余裕がない。バスは“エッセンシャル”と言いながら、公的補助も不十分」と事業者の厳しい経営状況に触れ、企業負担ではなく、国や自治体の助成で割引すべきだと強調した。さらに「精神障害は時代とともに対象が広がり、現代病と言われるうつ病などの患者が増えている」ことも影響していると指摘する。
県内の精神障害者手帳の発行者数は約9万4千人。身体障害者(約26万8千人)や、知的障害者(約8万人)と比べて増加ペースが早いという。
県西部の4社で割引できているのはなぜなのか。
その1社の箱根登山バスに聞くと、「エリアで競合するバスが割引していることもあって、3年前に導入した」という。4社とも隣接する静岡や山梨に乗り入れており、両県では大半のバスが割引していることが影響しているようだ。同社は「箱根エリアの観光路線は単価が高く割引負担も大きいが、社会福祉の一環という部分も含めて踏み切った」と説明する。
影響力大きい? 都バス無料
県内のバスは多くが都内にも乗り入れている。調べてみると、県内路線では割引していない事業者も都内の路線では、都が発行する精神障害者手帳を見せれば割引している事業者がほとんどだった。
都からバス会社への助成などはなく、県内と事情は変わらないはずだが、なぜ実施できるのか。
都の担当者は「都との取り決めはなく自主的にやってもらっているが、都バスが精神障害者を無料にしているから、ということもあるのでは」と話す。
昨年度の都内全体の乗り合いバス利用者は約6億人で、そのうち都バス利用者は3分の1近くを占める。都バスにも都予算による無料化への補填はないが、シェアが高くて経営規模も大きい都バスの影響力が大きいのだろうか。
都が身体・知的障害者らに発行している無料乗車券を精神障害者にも広げたのは2000年。その5、6年前から要望活動を行っていた都精神保健福祉民間団体協議会に聞くと「都議会への請願や街頭署名など、あの手この手で働き掛けた。都バスが無料になった勢いで民営バスにも要望を行い、その後割引が始まった」と教えてくれた。
県内と都内を走るバス会社は、地域で対応に差がある状況をどう感じているのだろうか。
ある私鉄系のバス会社は「今後の課題として認識しているが、できれば自治体の補助制度を確立してほしい」と本音を漏らす。マイカナに疑問を投稿した愛川町の女性が利用しているバス会社は「他社の状況や自社の収支などを勘案すると、現段階で(県内での)割引は難しい」と歯切れの悪い回答だった。
取材班から
国交省によると、国内の公営・民営の乗り合いバス事業者2337のうち、精神障害者割引を実施しているのは約4割の916(昨年4月時点)。割引助成があるのは全国でも横浜や川崎といった大規模自治体などにとどまり、大半が事業者任せとなっているのが実情だ。地域格差をなくす制度作りが必要だと感じる。(塩山 麻美)
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